
『Psychological Medicine』に共著論文“Prefrontally mediated inhibition of memory systems in dissociative amnesia”が掲載されました。
解離性(心因性)健忘のメカニズムは十分に解明されていません。認知神経科学の研究からは、一つの仮説として、前頭前野の制御によって記憶の想起が抑制される可能性が考えられています。本研究では、これらの知見に基づいた予測をもとに、解離性健忘における想起抑制の役割を検討しました。
本研究では、過去に報告された2例の解離性健忘患者のfMRIデータを分析しました。患者には、健忘の対象期間に関連する刺激(職場の同僚)と対象外の期間に関連する刺激(学生時代の友人)を提示しました。想起が困難な前者の刺激と、想起可能な後者の刺激の認知に関与する脳領域を比較し、これらの領域と実験的な記憶抑制課題で活動する領域との重なりを検討しました。また、右前部背外側前頭前野が海馬の活動を調節するという仮説を検証するため、有効結合解析を実施しました。さらに、両患者を治療後に再びfMRIで撮像し、同様の分析を行いました。
実験室での記憶抑制課題で賦活する抑制関連領域と、患者が職場の同僚を認知できなかったときに活動していた領域との間に、顕著な一致が見られました。特に、前部背外側前頭前野や腹外側前頭前野が活動し、自伝的記憶に関与する領域(海馬や内側前頭前野)の活動が低下していました。動的因果モデリングによって、仮説通り前部背外側前頭前野が海馬の活動を調整していることが確認されました。このパターンは、治療後に記憶が回復した1人目の患者では消失しましたが、依然として健忘が続いていた2人目の患者では持続していました。
本研究の結果は、解離性健忘において、自己に関連する情報の認識を防ぐために、記憶の中枢領域の活動が抑制されるというメカニズムを支持するものです。
Marsh LC, Apsvalka D, Kikuchi H, Abe N, Kawaguchi J, Kopelman MD, Anderson MC (2024)
Prefrontally mediated inhibition of memory systems in dissociative amnesia
Psychological Medicine 54 (16): 4779-4787