『Neuropsychologia』に論文が出版されました

『Neuropsychologia』に共著論文“Decreased sensitivity to loss of options in patients with Parkinson’s disease”が掲載されました。
 人は多くの選択肢があることや、選択の自由があることを好み、選択肢が失われそうな場合には、コストをかけてでも選択肢を維持しようとすることが報告されています。一方、パーキンソン病患者では、金銭を失うことに対する忌避感(損失回避)が低下していることが報告されているものの、選択肢を失うことに対する忌避感も低下しているかどうかは明らかにされていませんでした。損失回避には線条体が関与することが示されていることから、選択肢を失うことに対する忌避感も、パーキンソン病患者における線条体の障害に伴い低下する可能性が考えられます。本研究では、この可能性について検討を行うため、パーキンソン病患者と健常高齢者を対象に、3つのドアの内1つを選択することで、できるだけ多くのポイントを獲得することが求められるドア課題を、シャッター条件とコントロール条件の2つの条件で実施しました。シャッター条件では、選択しなかったドアのシャッターが少しずつ降りていき、一定数連続で選択しなければシャッターが完全に降り、選択することができなくなりました。コントロール条件では、シャッターはなく、ドアを選択できなくなることはありませんでした。パーキンソン病患者については、左右の線条体のドーパミントランスポーターの分布を、123I-イオフルパンSPECT画像から算出しました。その結果、健常高齢者では選択肢を維持するため、コントロール条件に比べシャッター条件で選択するドアをより頻繁に切り替えていましたが、パーキンソン病患者ではそのような切り替えの増加はみられませんでした。さらに、パーキンソン病患者において、コントロール条件とシャッター条件の切り替え数の差が少ないほど、左線条体のドーパミントランスポーターの分布が低下していました。本研究から、パーキンソン病患者では、線条体の障害に伴い、選択肢を失うことへの忌避感が低下していることが示唆されました。

Shigemune Y, Kawasaki I, Baba T, Takeda A, Abe N (2022)
Decreased sensitivity to loss of options in patients with Parkinson’s disease
Neuropsychologia 174: 108322